満室のはずのホテルに、当日になって予約が取れた。逆に、確定したはずの予約なのに「お部屋のご用意ができません」と言われた。旅行をしていると、どちらの経験もまれに耳にします。この矛盾の裏にあるのが、オーバーブッキングという仕組みです。航空券の世界ではよく知られていますが、宿泊でも同じ考え方が使われています。ここでは、なぜそんなことが起きるのかを、Q&A形式で順番に見ていきます。
オーバーブッキングとは、そもそも何をしていることなのか
オーバーブッキングとは、実際の部屋数より多く予約を受け付けることです。ホテル側が意図的にやっている場合がほとんどで、ミスではありません。
仕組みはこうです。予約をしても、当日来ない客が一定の割合で必ず出ます。体調不良、天候、予定変更、単純な連絡忘れ。理由はさまざまですが、統計的に見ると「キャンセルも連絡もせず来ない客」は毎日一定数発生します。ホテルはこの過去のデータをもとに、部屋数より数%〜十数%多く予約を受け、満室稼働に近づけようとします。
たとえば100室のホテルで、過去の実績から平均5室が無連絡不泊になるとわかっていれば、105件の予約を受けても実質100室分しか埋まらない計算になります。これなら収益を最大化しつつ、大きな問題は起きません。
ただし、この予測が外れることがあります。無連絡不泊が思ったより少なく、全員来てしまった日。これが、冒頭で触れた「泊まれなくなる」事態の原因です。予測と現実のズレが、そのまま宿泊客への影響に跳ね返る仕組みだと理解しておくとよいでしょう。
なぜホテルはリスクを冒してまで予約を多く取るのか
結論から言うと、部屋を空けておくことのほうが、ホテル経営にとって損失が大きいからです。
ホテルの部屋は、その日に売れなければ二度と売れません。飛行機の座席と同じで、在庫を翌日に持ち越せない商品です。1室が1泊空いたまま終われば、その売上は永遠に発生しません。一方、オーバーブッキングで多少の混乱が起きても、代替ホテルの手配や割引対応といったコストで済むことが多く、空室損失よりは小さく収まる、という経営上の判断があります。
具体的な場面で考えてみます。繁忙期の週末、客室稼働率を上げたいホテルが、過去データをもとに5%多く予約を受け付けたとします。結果的に3室分の予約が重複してしまった場合、その3組には近隣の同等以上のホテルを用意し、差額と交通費を負担する、といった対応が取られることがあります。コストはかかりますが、空室を抱えるよりは収益が残る、という計算です。
ここは迷うところですが、すべてのホテルがこの戦略を取っているわけではありません。小規模な旅館や、稼働率が常に低い施設では、あえてリスクを取る理由がないため、オーバーブッキングをほとんど行わないところもあります。規模や立地によって、やり方には差があります。
満室表示なのに後から空室が出るのはなぜか
これは需要予測の見直しと、キャンセルの発生が重なって起きる現象です。オーバーブッキングとは逆方向の動きですが、仕組みは地続きです。
予約サイトの「満室」表示は、その時点でホテル側が設定した販売上限に達したことを示しています。上限は固定ではなく、ホテル側の判断で随時調整されます。たとえば、団体客のキャンセルが入った、直前になって稼働率を優先して枠を開放した、といった事情があれば、満室表示が解除されて空室が復活します。
よくあるのは、出発の1〜3日前に空室が出るケースです。これは、個人のキャンセルが集中する時期と重なりやすいためです。旅行者側から見ると「土壇場で予約が取れた」ように見えますが、ホテル側からすると、在庫調整の結果にすぎません。
注意したいのは、この現象がすべてのホテルで同じタイミングに起きるわけではないという点です。都市部のビジネスホテルは直前のキャンセルが多く、観光地の人気宿は逆に早い段階でほぼ満室になり、直前の変動が小さい傾向があります。立地や客層によって、空室が出やすいタイミングは変わってきます。
もし自分の予約が重複してしまったら、何が起きるのか
予約確定の連絡を受けていても、まれに「お部屋をご用意できません」と告げられることがあります。その場合、多くのホテルは代替の宿泊先を用意する対応を取ります。
流れとしては、まずホテル側から事情の説明があり、同等かそれ以上のグレードの宿泊施設への振り替えが提案されます。移動のタクシー代や、当日の差額が補償されることもあります。対応の中身は施設ごとに異なり、法律で一律に定められているわけではないため、ホテルの方針次第という面があります。
具体的には、予約していた駅前のホテルが満室で、少し離れた系列ホテルに案内され、送迎車と夕食券が用意された、という例があります。多少の移動は発生しますが、宿泊自体ができなくなることはほとんどありません。
ただし、繁忙期のピンポイントな日程で、周辺の宿も軒並み満室という状況では、代替先の確保に時間がかかることもあります。チェックイン予定時刻を過ぎても案内がない場合は、こちらから早めに確認の連絡を入れたほうが、話が進みやすくなります。
オーバーブッキングのリスクを減らすには、何を見ればいいのか
完全に避ける方法はありませんが、リスクの高い予約と低い予約を見分けることはできます。見るべきポイントは、予約の確定度合いと、支払いのタイミングです。
一般的に、前払いで確定している予約のほうが、ホテル側にとってキャンセルされにくい予約として扱われます。逆に、現地払い・無料キャンセル可の予約は、ホテル側の予測上も「来ない可能性がある客」として扱われやすく、結果的に調整の対象になりやすい傾向があります。
たとえば、同じ日程で2つの予約方法があったとします。ひとつは前払い・返金不可、もうひとつは当日まで無料キャンセル可能なプラン。価格だけを見ると後者が魅力的に見えますが、繁忙期であれば、前払いのほうが部屋を確保できる確度は高くなる、という考え方ができます。
もうひとつの目安は、予約サイトと公式サイトのどちらで取るかです。一般的な傾向として、公式サイト直接予約の客を優先する施設は少なくありません。これは、予約サイト経由の客より管理がしやすく、連絡も取りやすいためだと言われています。
- 前払い・返金不可のプランは、ホテル側にとって確定度が高い予約として扱われやすい
- 公式サイトからの直接予約は、優先度が上がる施設がある
とはいえ、これらはあくまで傾向であり、絶対の保証ではありません。繁忙期の人気宿を予約する際は、こうした違いがあることを知っておくだけでも、予約方法を選ぶときの判断材料になります。
